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最高裁判所大法廷 昭和24年(新れ)7号 判決 1950年6月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鳥海一男の上告趣意は末尾添附別紙記載のとおりである。

憲法一三条及二二条には共に「公共の福祉に反しない限り」という枠があるのである。原審が論旨摘録のように判示して職業安定法三二条は現今わが国情の下において公共の福祉のため必要のものであり、憲法の右各条に反するものでないとしたのは相当である。職業安定法は戰時中の統制法規とは異り所論のように産業上の労働力充足のためにその需要供給の調整を図ることだけを目的とするものではない。各人にその能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を與え、職業の安定を図ることを大きな目的とするものである。在来の自由有料職業紹介においては営利の目的のため、条件等の如何に拘わらず、ともかくも契約を成立せしめて報酬を得るため、更に進んでは多額の報酬を支拂う能力を有する資本家に奉仕するため、労働者の能力、利害、妥当な労働条件の獲得、維持等を顧みることなく、労働者に不利益な契約を成立せしめた事例多く、これに基因する弊害も甚しかったことは顕著な事実である。職業安定法は公の福祉のためこれ等弊害を除去し、各人にその能力に応じ適当な職業を与え以て職業の安定を図らんとするもので、その目的のために従来弊害の多かった有料職業紹介を禁じ公の機関によって無料にそして公正に職業を紹介をすることにしたのであり、決して憲法の各条項に違反するものではない。それ故論旨は理由がない。

よって刑訴四〇八条に従って主文の如く判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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